3日目 南千歳→函館→上野



北海道紀行最終日。

この日は秘境駅・小幌と、さらに念願の北斗星乗車という、

なんなら江差線よりも心躍る日程となっている。


ホテルホーリンでしっかり休息を取った私はこの日も6時に起床した。

普段寝坊しがちな私だが、旅となると苦もなく起きられるから不思議だ。

急いで支度を済ませ、6時30分にホテルの送迎サービスで南千歳に向かう。

5月だというのに北海道の朝は肌寒さを感じる。

だがこの後の旅路を考えたら寒さなど屁でもない。

7時8分発のスーパー北斗2号に乗り込み乗り換え地点である長万部を目指す。

千歳線区間を抜け室蘭本線区間に入ると、すぐ左手に海が広がっていた。

5月の陽光を受けた海面の煌めきが実に美しい。

南千歳駅 スーパー北斗2号


2時間ほど乗車し、長万部に到着。

乗り換え時間は3分程しかないので、急いで階段を駆け上がる。

運行本数が絶対的に少ない室蘭本線の鈍行であるが、

それに加え小幌への停車は日に3本という少なさである。

鉄路か海路でしか行けないこの地は保線のためだけに残されているようだ。

尤も、そういった秘境駅だからこそ訪れたくなるものである。

とにかく列車に乗り遅れないことが重要だ。

8時58分、定刻通り列車はやってきた。

鈍行で揺られること15分強、いよいよその時はやってきた。

高鳴る胸、緩む口許、興奮しきった私とは裏腹に

見開いた目で私を見つめるおばあちゃん

こんなところで降りる物好きに出会う機会もそうそうないだろう。

小幌駅

どや顔できっぷを見せ、そこに降り立つともう既に人影が疎らにある。

自分1人だけではないことに遺憾の念を覚えるとともに、

どこか安心したのも事実である。

適当に挨拶を交わしつつ、海へと続く山道を行く。

手入れもろくにされていないのだろう、そこかしこに蔓は伸び、

小川にかけられた渡り板は腐りかけ、とても道と呼べるものではなかった。

数十分かけ降りてゆくと、眼前には目を瞠るほど素晴らしい光景が待ち構えていた。

そこには幸運にも私しかおらず、聞こえるのは波風の音と鷗の鳴き声だけであった。

まるでこの世に存在する人間が私だけであるかのような錯覚に陥るほどの絶景。

いつまでもここで海を眺めていたい——。

そんな気分にもさせられたが、

そんなことをしたら北斗星に乗れないのでやむなく駅へと戻る。

小幌駅 小幌駅



それでもまだ1時間近くあるため、駅周辺を散策することにした。

誰も盗る人などいないだろうからホームに荷物を置き撮影に勤しんでいると

思いもしなかった事態が起きた。

荷物を盗られたのだ。

そんな、まさか、あり得ない。

などと考える間もなく、それは飛び去っていった。

そう、なんとビニール袋に入れておいたおにぎりを狙っていたがいたのだ。

唖然としていると、同じく散策していた方が烏に立ち向かっていったくださった。

なんと勇猛果敢な御仁であろう。

そんな林の方まで入っていかなくてもよいですのに。

結局取り返すことはできなかったのだが、そのおかげで話しかけるきっかけが出来た。

やはりその方も筋金入りの鉄で、各地を色々と巡っているそうである。

さらに偶然にも帰りは同じ北斗星。不思議な縁を感じた。

駅ノートと周辺案内 駅ノート
小幌駅 小幌駅

2時間20分の滞在時間もあっという間に過ぎ去り、

11時35分、またしても室蘭本線に乗り込み長万部へと向かう。

さて、ここからまたマニアックな話になる。

室蘭本線には東室蘭-室蘭を結ぶ支線があり、それもフリーエリア内に入っている。

折角の機会なのだから、そこも乗り潰さなければ気が済まない

そこで長万部から一度通過した東室蘭まで戻り、

そこから支線に乗るという、端から見たら理解し得ない行程を取ることになるのだ。

11時59分に長万部で北斗85号に乗り(危うく函館行に乗るところだった)、

そこからおよそ1時間、12時53分に東室蘭へ着いた。

小幌駅整理券
ジョージアミルクコーヒー 北斗85号

そろそろ腹も減ってきた。

待ち合わせに余裕もあるので、ここで昼食を取ることに。

母恋めしという駅弁を購入。

海沿いで風も強い中、素朴な味を堪能する。

13時45分、ようやくやってきたレトロボディの支線に乗り、室蘭を目指す。

室蘭での滞在はおよそ15分。

急いで駅舎の撮影と駅スタンプの押印を済ませ、即座に折り返しの列車に乗り込む。

盲腸線では終着駅でそのまま折り返し運転する上、

それを逃すとしばらく後がないのが辛いところ。

流石にもう少しゆっくりしたかったが仕方ない。

東室蘭駅 母恋めし
室蘭本線支線 室蘭駅
室蘭駅 室蘭駅

再びの東室蘭では30分程時間がある。

北海道限定・キリンガラナを飲んでリフレッシュする。

ここで母の日記念乗車券という切符が売られていることに気付く。

なるほど、母恋という地名に因んだニクい企画である。

折角なので2枚購入し、母へのプレゼントとした。ニクいぜ。

14時53分、函館行の北斗90号がやってきた。

この列車は少々古いタイプだったのか、車内ドアが壊れて手動での開閉であった…。

こんなところにも老朽化の波が来ているのか。

母の日記念乗車券 北斗90号 サボ交換

またまた左手に海を臨みつつ南下し、16時37分、で下車。

函館まで行けるのに何故森で降りるのかというと、これまた乗り潰しのためである。

函館本線には8の字のようになっている区間があり、ここを乗り潰すためには

森から出ている砂原支線と呼ばれる路線に乗る必要があるのだ。

このルートは遠回りで時間もかかるが、これぞ乗り鉄の醍醐味だ。

森でも特にやることはないので周辺を散策する。

バイクに興じる若者がいたり、ここではまだ桜が見頃だったり、

水切りをする父子がいたりと、森町民ののんびりとした生活を垣間見ることが出来た。

時刻は17時30分をまわり、日も傾き始める。

海面に反射する陽光もどこか物寂しくなってきた。

北斗90号 森駅

森駅

17時58分、函館本線砂原支線に乗り込む。

はじめこそ海沿いだったが、どんどん山深くなってゆく。

と、ここで普段はまず聞くことの出来ない車内アナウンスが流れ、急停止する。

鹿が飛び出して参りましたため急停止いたしました」

なんとポケモンよろしく、野生の鹿が飛び出してきたのであった。

動物たちの生活圏を切り拓いて鉄道を通しているのだから、当然といえば当然か。

いずれにせよ人間の生活のために、罪のない鹿が跳ねられずに済んだのは幸いだ。

色々と考えさせられる出来事だった。

それにしても試されすぎている大地である。

トラブルはあったものの19時31分、ようやく函館に着く。

北斗星は21時49分発なので、それまでやることといえばお土産を買うくらいである。

もちろんそれもすぐ終わってしまったので、待合室で1人寂しくビールを呷る。

尾白内駅
函館駅 函館駅
0キロポスト

少々早いがホームに出て待っていると、21時38分、

待ちに待ったブルーの列車が入線してきた。

一斉に焚かれる撮り鉄たちのフラッシュ。

まだまだその魅力は衰えないようだ。

撮影もそこそこに、B寝台2号車2番上段のベッドへと足を運ぶ。

JRのロゴが入った浴衣が素敵。

荷物を置き、食堂車へ向かってみる。

ディナーの予約は取っていなかったため、残念ながら食事は出来ず。

シャワーカードとシャワーセット、北斗星のミニヘッドシールを購入。

案内板 北斗星
北斗星 シャワーカード・シャワーセット・ミニヘッドシール
北斗星 北斗星 浴衣

自分へのお土産が買えた悦びでほくほくしながらベッドへ戻ると、

ちょうど検札中であった。

別途青い森鉄道IGRいわて銀河鉄道の乗車券が必要になるため、

ここで発券して貰う必要がある。

クレカを差し出すと車掌さんから「使えません」とばっさり。

現金で払おうとするも300円足りない…!!

焦る自分、困る車掌。

身分証明をして、なんとか着駅・上野で精算して頂けることに。

ありがとう、JRの方々。

現在23時8分。

青函トンネルは抜けたようである。

まだ寝るには早いのでロビー車へ向かうことにする。

小幌であった方はいるだろうか、少々期待したのだが、

おじさんが1人いるだけであった。

窓際に腰掛け、2本目のビールを呷っていると、

そのおじさんに話しかけられた。

身の上話から就活の話になり、各種アドバイスを頂くことが出来た。

何をしたいか、何をやってきたのか、自己PR、

それら3つを面接でしっかり言えるかがポイントだという。

その後、大いに参考にさせて頂きました。

非常に嬉しい出会いだった。

0時も30分を過ぎ、楽しいひとときもお開きに。

明朝は8時30分からシャワーであるから、

初の寝台に興奮も冷めやらぬまま床に就く。



翌朝



6時頃、福島駅到着のアナウンスで目を覚ます。

そのまま30分程蒲団の中でごろごろするも、

折角早く起きた朝なので車窓からの風景を楽しむことにした。

車内販売が来たのでお弁当を買おうとするも、

早々に売り切れたという。やはり人気なのだ。

致し方ないのでコーヒーのみ購入。

ベッドでのんびりしていると、車掌さんが訪れ、

精算の関係で別の車両に移って欲しいと言われる。

そして案内された先はBソロという個室

申し訳ない気持ちになりながらも、思わぬ幸運にテンションは上がる。

寝台 シャワールーム
シャワールーム コーヒー(300円)

時間が来たのでシャワーを浴びる。

シャワーカードを機械に差し込むとお湯が出る仕組みだ。

昨日の疲れが癒やされる。

シャワーから戻ると、もう既に見知った駅がどんどん出てくる。

もうすぐこの旅が終わってしまうことを嫌でも実感させられる。

この旅でやりたいことは全てやり尽くした。

金も時間もかかったが、思い出深い旅であった。

感傷に浸りつつ9時38分、函館乗車の寝台列車は終着・上野に到着した。

個室で待機していると車掌さんと駅職員に案内され、みどりの窓口へ。

そこで精算を済ませ、全ての行程が終了した。

個室 上野駅

長くしんどく、しかし充実した旅だった。

今回の旅はこれで終了だが、

全国にはまだまだ未乗車区間が数多く存在する。

次の乗り鉄の旅までしばし、休養を取ることにする。

最後までお読みくださりありがとうございました。

次なる旅までお待ちください。