2日目 留萌→岩見沢



「あ、ふーん」とは言ってない

 5時30分起床。あれほど走ったのに不思議とすんなり起きられた。旅の昂揚感がある。宿の名前が光陽館なだけに。若干の肌寒さはあるが、夏の朝日が心地よい。前日、宿のご主人が電話で予約してくれたタクシーも6時前にやってきた。阿分駅までと告げると、例の国道231号を悠然と下っていく。前日の夜は真っ暗で殆ど景色が分からなかったが、一面の海が朝日によく映えている。さほど間を置かずに阿分駅へ着く。運転手さんに「ここでいいの!?」と聞かれたが、いいんです。運賃は2450円。完全下車のためには惜しくない出費だ。

 早朝の阿分駅に人なんていないだろうと思っていたのだが、物置みたいな待合室で弁当を食べている人がいた。旅人だとしてもマジか。周辺には廃校があるくらいで、かつての隆盛が偲ばれる。定刻通りやってきた列車で瀬越駅へ向かう。

光陽館
早朝の留萌。涼しい空気が心地よい。
阿分駅
タクシーで阿分駅前に到着。
阿分駅
上り列車がやってきた。瀬越駅へ向かう。
留萌本線
車内は閑散としている。もっと乗っていれば…。


エクストリーム・乗り換え 再び

 そして到着した瀬越駅。本当に海が目の前に広がっている。ここでは折り返しの下り線を待つため少々時間がある。眼前の海へとちょろっと散歩。よく晴れていて実に気持ちが良い。ここに列車が通ることはもうないのが切ない。小屋のような駅舎にはやはり駅ノートと、利用者が寄贈したのか、籐製の椅子が置かれていた。

 さあそして再びやってきた下り列車に乗り込む。今度は終着・増毛まで向かう。これで留萌本線は完乗ということになるが、まだ駅は箸別朱文別が残っている。この2駅に到達するために、増毛からはまたしてもエクストリーム・乗り換えを敢行する。増毛から1つ手前の箸別まで走っていき、増毛で折り返した上り線に箸別から乗り、朱文別で降りるというもの。増毛-箸別間は約3キロ。猶予は20分。かなりギリギリだが頑張ってみる。


開けた車窓から海を眺める。
瀬越駅
瀬越駅。乗ってきた列車が留萌へ向かっていく。
瀬越駅
瀬越駅前。夏真っ盛り。

運転士さんも残された時間を惜しんでいるよう。


最後まで走り抜けて

 車内には鉄と思しき人も数人乗っていた。増毛に着けばそりゃあやってきた列車を撮ったり駅舎でまったりしたりとするのが普通(?)だが、私は完全下車という大きな目標がある。そのため今回は列車にも駅舎にも見向きもせず線路に沿って走り出した。駅前にタクシーが溜まっていないか期待したが、利用者がほぼいない状況で駐留させておくだけ無駄というもの。

 さて、これから20分で3キロを走破しなければならない。1キロ3分ちょいとして、3キロで10分。余裕じゃん!! というのは中学時代の全盛期の話。案の定リュックは重く、急勾配があり全然ペースが伸びない。Googleマップはそもそも徒歩36分とか出てるから15分も縮める必要がある。暑い陽射しを一身に受け、私は…走った……!! 坂を登って陸橋に差し掛かるとようやく箸別の駅が見えた!! あと数百メートル。行ける!! と意気込んだところで警笛が響く。かなりへばっていたが、駅伝よろしくラストスパートをかける。駅は板張りのホームがあるだけ。果たして…。

箸別駅
3キロを走破してようやく到着。列車の姿が見えない…
箸別駅
来た! 間に合った! あと数十秒遅れたらアウト。


 さっき増毛で降りた男が汗だくになって箸別から乗ってくるというのは、多分後にも先にもそうはいないはず。尤も、もう二度とできないんだけど。運転士さんやちらほら乗っていた乗客が何か言いたげなように見えたのは気のせいではないと思う。「あんたさっき増毛で降りたじゃん!!」とでも。そして息を整える間もなく、列車は1駅先の朱文別に滑り込んだ。零れそうになる笑みを抑えながらやはり板張りのホームに降り立つ。スンゲー走ったが、廃止区間の全駅に到達したのであった。完全下車記念に2度目のセルフィー

朱文別駅
留萌本線 留萌-増毛間 完全下車!!

自販機すらなかった

 朱文別で降りた列車が行ってしまったら、次は昼まで列車が来ない。折角なので散歩がてら増毛に戻る。走っていたときは景色を見る余裕なんて全くなかったし、いつも予定はぎゅうぎゅうに詰め込むからこうしてのんびり歩くというのは新鮮だ。国道231号はさほど交通量も多くなく、のんびりとした雰囲気が漂う。道中にある民家は既に朽ち果てたものもあり、過疎化の淋しさが如実に表れている。もちろん自販機なんてものはなく、箸別駅付近にある老人ホームでそれを見つけるまで喉を潤すことはできなかった。それにしても海沿いの道というのは浪漫がある。疲れはピークに達していたが、それを上回る感動がここにはある。

朱文別駅
朱文別駅で列車を見送る。次は昼まで来ない。
箸別川
二級河川の箸別川。せせらぎの音が癒やし。

陸橋の表示。廃止後はどうなってしまうのだろう。

この左はすぐ坂になっている。箸別駅に行くとき登ってきた。


2016 増毛の夏

 増毛駅に戻るとやはり街の中心部なのだろうか、これまでとは打って変わって人の気配が感じられるようになった。改めて駅舎やホームに入ると、来る廃止の運命を惜しむような寂寥感で満たされている。廃線を示す手書きの掲示物、多くの人に書き込まれた駅ノート。駅員はいないが、土産物店が併設された待合室はどういう運命を辿るのだろうか。ラムネを飲みながら儚い宿命に思いを馳せる。鉄道文化が消えゆくのは例え全く関係のない土地だろうとやるせない気持ちになる。バスへの転換はさらなる衰退に繋がってしまうため、やはり普段から活用しなければと思う。

増毛駅
戻ってきた増毛駅。哀愁ある終着駅。
増毛駅
手書きの掲示物。この地の人の無念さが窺える。
増毛駅ノート
やっぱり駅ノートには書き込みを。
観光案内所
駅前にある観光案内所。


 さて、心機一転、街なかを散策することにする。まずは駅前にある観光案内所へ行く。ここには駅スタンプが置かれているのだ。中には担当のお姉さんが1人。挨拶して入ると、目に飛び込んできたのは故・高倉健さん主演の映画「駅 STATION」ゆかりのパネルなど。私は映画を見ていないのでよく分からないが、かつての活気が思い起こされる。小さな町なのでめぼしいところはざっと見て回れそうなのでお姉さんに地図をもらい、オススメの海鮮料理店を教えてもらった。

 教えてもらった「寿しのまつくら」という寿司屋に行ってみる。まだ昼前で開店前だったのかもしれないが、入口は開いたので入ってみると、大丈夫ということだったので少し早い昼食にする。2,000円の海鮮丼はぷりっぷりの甘エビやイクラがふんだんに使われていて大満足。味の宝石箱とはこのこと。港町ならではのおいしさだった。腹ごしらえを済まし、改めてぶらぶらする。神社では夏祭りが行われている。「Air」とか「ひぐらしのく頃に」とかの雰囲気が漂っている。そして日本最北端の酒蔵・国稀酒造を訪ね、再び案内所へ戻る。町の特産品が当たるスタンプラリーに応募して、バスで町を後にする。

海鮮丼
ほっぺたが落ちそうなくらい美味かった。
厳島神社
地元のお祭りは旅情を高めてくれる。
国稀酒造
日本最北端の酒蔵・国稀酒造。

向こうはすぐ海。このロケーションが羨ましい。

町のお店を利用するとスタンプ1個。2つ集めてD賞に応募。
増毛駅前停留所
列車はしばらく来ないのでバスで留萌へ向かう。


多分カップルとか家族連れで乗るもの

 戻った留萌では記念入場券を購入。廃止で記念というのもおかしな話だが、この入場券があることでいつまでも記憶に残るものとなる。名残惜しいが廃止区間にばかり気を取られてはいられない。滅多にない機会なのだから乗れるところは乗り潰す。深川へ行き、そこから特急・サロベツ旭川へ向かい、そこから富良野線に乗る。旭川では15分の猶予があるが、ターミナル駅であるため構内が広く移動が大変だ。2箇所ある駅スタンプを押していたら結構ギリギリになってしまった。

 1両編成の富良野線は既に何人か乗っていたが、運良くボックスシートの窓際を確保できた。対面にはおばさんが1人。でかいリュックとカメラを携え時刻表を眺めていたからか、向こうから話しかけてきてくれた。聞けばその方は春から秋まで富良野でカフェを営み、冬は故郷の名古屋に帰るという。なかなか粋な生活をされていて羨ましい。自分は旅して回っていると話すと、富良野は車でも回ってほしいと勧められた。結局この列車の終着である美瑛までずっと喋っていて景色はあんまり覚えていないが、それでもこういう出会いも旅の楽しみの1つである。次は是非カフェを訪ねたい。

留萌駅
3度目の留萌駅。こんな駅舎だったのか。
深川駅
2度目の深川駅に到着。
特急・サロベツ
特急・サロベツで旭川へ。
留萌駅
旭川駅では顔出しパネルがお出迎え。


 続いて美瑛から乗るのはノロッコ号。窓がないトロッコ列車で、真夏の風を一身に浴びながら広大な自然の中を走っていくのだ。これも北海道フリーきっぷで指定席を取れたおかげ。どこから沸いて出たのか、ノロッコ号には中国人観光客が嫌っちゅうほど乗り込んでくる。差別をするつもりは毛頭ないがこればっかりは中国人のマナーの悪さに辟易した。子どもの躾がなっていないわ列に割り込むわ。折角落ち着いた雰囲気を楽しみたいのに残念でならない。腹が立ったから車内の売店で地ビールを買って飲んでやった。真っ昼間っから列車に揺られて飲むビールは至高であった。観光列車というだけあり車内ではガイドさんが景色の案内をしてくれるのだが、これまた小気味がよい。本当はラベンダー畑駅で降りたかったが接続の関係で断念。スピードこそゆっくりだが、感覚的にはあっという間に富良野に着いてしまった。

美瑛駅
美瑛駅。中国人が大挙して押し寄せている。
ノロッコ号
ノロッコ号が入線してきた。男1人で乗るもんじゃない。

有名な絵のモデルになった景色なのだが、何なのか忘れた。

地ビール!! スッキリして美味い!!
ラベンダー畑駅
次回はラベンダー畑駅に降りたい。

富良野からは新得へ向かう。


やらかした PartⅡ

 あとはもう移動するだけである。富良野から新得、新得から南千歳、南千歳から苫小牧、苫小牧から岩見沢と乗り継いでいく。なぜこんなルートを辿るかというと、やはり未乗区間があるからだ。さようなら江差線のときは「みなみ北海道フリーきっぷ」の区間を全て回れたが、そうすると函館本線室蘭本線が飛び飛びになってしまうのである。今回はその飛んでしまった区間も埋めてしまおうというのだ。この辺りはぬかりない。ただ、夕張線に乗れなかったのが悔やまれる。

 そしてやってきた新得駅。ここは乗り換えが6分とシビアだが、無論、駅舎の撮影と駅スタンプの押印はする。これまでトータル10キロ近く走ってきた私にとってこれくらい何でもないと余裕ブッコいていたらやらかした特急・スーパーおおぞらの指定席に座って荷物の整理をしたら、日記を付けたりスタンプを押したりしてきたクロッキー帳がない。あろうことか新得駅に置き忘れてきてしまったらしい。何たる失態。急いでデッキに出て新得駅に電話をかける。繋がった。
「もしもしちょっとお尋ねしたいのですが…」
「はい、何でしょう」
「そちらのスタンプ台のところに…」電話切れる。トンネルだ。抜けたところで再度かける。
「あ、先ほど忘れ物の件で電話した者なんですが…」電話切れる。またトンネルだ。
焦りばかり募る。10分程待って再度かけたら無事そのままあったということ。後日、着払いで送ってもらえることになった。新得駅の担当の方、この場を借りてお礼申し上げます。

 安心したら腹が減ってしまったので車内販売で駅弁を購入。買ったのは「うにいくら丼」。普段、ウニは苦手な部類に入るのだが、大好物のイクラと一緒だと信じられないくらいオイチイ。最高か。

根室本線
根室本線も窓が開くから綺麗に写真が撮れる。
新得駅
悪夢の新得駅。油断大敵である。
特急・スーパーおおぞら
スーパーおおぞらも指定席でゆったり。
うにいくら丼
まだ通風じゃないので海の幸を心ゆくまで味わう。


丁寧な店員がいる苫小牧のドンキ

 苫小牧に着いたのは20時過ぎ。次の岩見沢行の列車まで1時間半近くあるのでブラブラと時間を潰す。駅前のタクシープールには餌付けされているのか、人によく馴れた野良猫たちがいた。わしゃわしゃと背中や顎をなでてやると気持ちよさそうにしていた。ぐぅかわ。反対側の出口にはドンキがあったのでクロッキー帳を購入。これがないとスタンプも押せないので助かった。

 21時32分、定刻通りやってきた室蘭本線でこの日の目的地・岩見沢まで向かう。これで室蘭本線は完乗ということになる。最終列車だったため、車内はガラガラ。これじゃあどんどん廃線になってしまうわけだ。約1時間20分後に到着した岩見沢にはおよそ人影などなく、オレンジの街灯だけがもの悲しげに行く手を照らしていた。いつの間にか異世界にでも来てしまったのではないかというような雰囲気に少々心細くもなる。予約を取った宿は無事営業していた。この日も長い1日だった。翌日は根室方面への長い長い行程がある。またしても一瞬で眠りに落ちてしまった。

野良猫
苫小牧駅前で猫分を補給。
苫小牧駅
苫小牧もさほど栄えているわけではなさそう。
室蘭本線
室蘭本線岩見沢行最終列車。貸切状態。
岩見沢ホテル
岩見沢ホテル。周辺の雰囲気はまるで異世界。