三江線全駅制覇を目指して

 山陰地方を舐めていた。まー生きづらいこと行きづらいこと。なんのこっちゃというのは、広島・三次と島根・江津を結ぶ地方交通線、三江線のことである。営業キロ約108キロ、全35駅の長大なローカル線が2018年3月に廃止になってしまうので、10月に取った夏休みを利用して行ってきたのだ。ちなみにきっぷは秋の乗り放題パス。便利だ。
 もちろん目指すは全駅下車だが、まずはこのスカスカダイヤを見てほしい。

時刻表
ページの隅に収まってしまうレベルのダイヤ。


 一見、ローカル線にしてはあるように見えるが、それは錯覚である。
 例えば江津から出る上り線は0553の次は1234、その次は1515というような状況だ。モータリゼーション→列車に乗らない→運行間隔が広がって不便→列車に乗らない…の悪循環の末、かろうじて残ったダイヤといった感じか。いずれにしてもこんな中で制覇しなければならないのは酷だが、やるしかない
 いつも通り、当該駅で降りるか乗るかすれば「下車」とするルールを適用するため、列車から降りた駅とは別の駅まで歩き、そこから列車に乗って駅数を稼ぐ。しかし35駅もあると、得意の行き当たりばったりでは到底不可能なのできっちりプランニングをするのだが、これがなかなか難しい。書いては消して書いては消してを繰り返し、何とか作り上げたプランが右下の画像だ。ダイヤとか宿の関係がどうしても絡んでくるので大分難航した。というわけで、初日は三次0538発の列車でスタートする。早。


とりあえず適当に書いて…

あーでもないこーでもないっつって修正を繰り返す


1駅目 三次みよし

三次
三次駅。まだ夜は明けきっていない。
三次
三江線各駅には神楽の演目名の愛称がある。ここは土蜘蛛。
 

 三次市内のホテルから歩いてやってきた三次駅。
 以前、木次線に乗ったときに乗り換えで使ったことはあったが、三江線に乗るのは初。わくわくしながらホームに降り立つと既にテツの方々で溢れかえっていた。おうふ、マジかよこいつら。日曜の朝から何してんねんとか心の中で悪態をつきつつ、列車に乗り込む。車両前方の窓の前にはでっかいカメラを携えた方々が陣地を広げている。自分も前方の景色を見たかったが、どうせ長い付き合いになる列車だ。肩がぶつかるほどぎゅうぎゅうのロングシートに腰掛け、香淀駅まで列車に揺られる。

三次
これを逃すと次は4時間半後。
三次
ホームには既に多くのテツの姿が。


2駅目 香淀こうよど

香淀
香淀駅。意外としっかりした駅舎
香淀
羅生門。
 

0615、香淀に着く。さぁ、ここから徒歩の旅が始まる。Googleマップを見ると、




 江の川沿いの雄大な景色を楽しめるルートと、山を突っ切るトンネルルートの2パターンが表示された。所要時間はどちらも50分台だが、距離で言ったら明らかにトンネルルートが短いので、美しい自然を捨てて人工的なあなぐらを進むことにした。雨も降ってきたし。クソ。

道中


 オラー!! こんな感じでずんずん進んでいくんじゃーい!!
 トンネルを抜けると目の前は江の川だった。やっぱり歩くならこういう自然の中の方が断然良い。途中、えっこれが国道? っていうような道をずんずん進むと、そこはもう3つ目の駅、式敷だ。

江の川
雄大な江の川を尻目に歩く。
国道433号線
えっこれが国道?
踏切
踏切は立派。
横断幕
地域の宝の寿命もあとわずか…


3駅目 式敷しきじき

式敷駅
式敷駅。駅名標がないパターンの駅舎。
式敷駅
滝夜叉姫。
 

 次の列車まで15分ほど余裕を持って到着した。待合室のベンチにちんまり腰掛けていたジモティーと思しきおばあちゃんに「おはようございまぁす」なんつって挨拶すると、「あれー珍しいねぇ。どこから来たの?」などと話しかけてくれた。旅はこういう交流があるから楽しい。2、3往復会話のキャッチボールをして、ホームで写真を撮っていたらちょうど列車が入線してきた。ここまで怖いくらいに順調に来ている。

式敷駅
おばあちゃんのほか、テツの方も乗車。
車窓
先頭の窓からも江の川が見える。


4駅目 所木ところぎ

所木駅
所木駅。ホームがこれでもかってくらい狭い。
所木駅
玉藻の前。


 時刻は0710。一瞬。歩くのはめちゃんこ時間がかかるのに列車が着くのはあっけないほど一瞬。乗車時間8分て。もう既にバカバカしくなってきたけど、こんなところまで来てしまっては帰りようもないので、また歩き始める。次は2キロ離れた信木駅で、0852発の列車に乗り込む。



所木駅
俺を置いて所木駅を出る列車。
所木駅
味のあるお手製看板。ハートがニクいぜ。
沿線
見渡す限りの緑と茶。
沿線
道路に人の気配がまずない。


 ひたすら緑と茶色の世界が続く。歩いている道に全然生活感がなくて不安になってくる。ずんずん進んでいくとこんなものが。

看板


 
帰り道 笑顔を見ると ホッとする


ここまで笑顔ゼロだよ! こえーよ!! 見せてくれよ下佐振興会!!

なーんついながらも先を目指すと…

信木駅

 
ヒェェーイ!! 信木駅じゃー!!




5駅目 信木のぶき

信木駅
信木駅。線路の向こうは江の川。
信木駅
子持山姥。


 まだ5駅目という絶望感があるも、とにかく目的地には着いた。この時点でまだ8時前。あと1時間くらい余裕があるので貸切状態のベンチで列車を待つ。

信木駅


 ベンチから見える景色はこんな感じ。うーん、晴れていれば江の川も綺麗なんだろうなぁ。0852時、定刻通りやってきた列車に乗り込んで、続いて目指すは長谷駅。今度の列車もかなり多くの人が乗っていて、高い湿度と相まって車内の不快指数は高い。ホントに廃線になる路線かこれ。列車は14分程で長谷駅に到着。こんだけ人がいて降りたのは俺1人。わお。

信木駅
なんか結構乗ってるっぽい。
三江線
これが廃線になる路線の車内かよってくらいの人。
長谷駅
長谷駅に到着。降車は俺のみ。わぉ。
三江線
本当に江の川沿いを走っているのが分かる1枚。


6駅目 長谷ながたに

長谷駅
長谷駅。普通列車でさえ停まる時間は限られる。
長谷駅
鍾馗。


 列車が行ってしまうと、ひっそりとした静寂が訪れる。ここ長谷駅は一部の普通列車も通過してしまう、三江線の中でも秘境感著しい駅なのだ。さて、この長谷駅にはホームから一段下がったところに待合室が設けられている。

長谷駅
千歯こきとかが置かれてそうな感じ。
イラスト
???


 待合室っちゅうか掘っ立て小屋っちゅうか。中には誰が残したのか、4枚のイラストが。鉄路で秘境駅に降り立って満足した旅人、というようなストーリー仕立てだが、オチがよく分からない。これは是非、長谷駅に行って見てもらいたい。
 時刻は9時過ぎ。続いて2.3キロ先の船佐駅まで歩いて1022発の列車を捕まえたいのだが、雨脚が激しさを増してきてしんどい。雨男の本領が発揮されてまいりました。さーて本降りになる前に着けるか。



道中


 長谷駅を出ると、車のすれ違いもできないような小径を進むことになる。言うてそんな車は来ないから大丈夫なんだろうけど、この辺りが生活道路だったら大変だろうなぁ。中国山地の険しさを物語っている。ていうか本降りになってきたよ。傘さして動画と写真撮りながら歩くのしんどいよ。あの蜂の巣は何なんだよこえーよ。何かの儀式かよ。

中間点
何かの中間点。
県道112号線
県道112号線。Wikipediaによると未だ全通していないという。
横断幕
あれに見えるは…
横断幕
式敷駅でも見たような横断幕が。


 どうやらここは県道らしい。酷い道を酷道というのなら、ここはさしずめ険しい道で険道といったところか。なーんて独りごちても聞こえてくるのは、雨で濁った江の川の轟音のみ。OK, go on. さらに進むとようやくちゃんとしてるっぽい道に出ることができた。

三江線 乗ってください 未来のために

うるせえこちとら乗るために歩いとるんじゃ。

沿線
さっき来た道。
沿線
これから進む道。


 振り向けば大型車通行困難、先を見れば走行注意レベル4。行くも地獄、帰るも地獄。同じ地獄なら行かなきゃ損損ってか。関東平野がワールド1だとしたら中国山地はもうワールド7くらいだね。平野って偉大だって、失って初めて気付くね。そういや中学の時の国語で、「へいや」を「ひらの」って読んだ女の子がいたね。でもしょうがないよね、国語を教えてたのが平野先生だったし。ただ文脈で気付こうな。



7駅目 船佐ふなさ

船佐駅
ホームから離れた位置に建つ待合室。
船佐駅
悪狐伝。


 歩くこと約35分、辿り着いた船佐駅には離れのような待合室がぽつねんと建っていた。ホームとどんだけ離れてんねん、って感じなんですが、その写真を撮り忘れました。気になる人はぜひ自分の目かGoogleマップで確かめてください。

船佐駅
駅ノート。「沿線はなかなか凄い…県道でしょアレ」と書いてある。
三江線
時間は正確だ。ここから約2時間の長い旅路になる。


 っていうか船佐駅は、内にも外にも人がいた。おばあちゃんがいた式敷はまだ集落って感じだったけど、ここはもう点在ってレベル。まぁ人がいるから列車が停まるわけなので、いることはいいんだけど、明らかにテツ。どっからどう見てもテツ。いいんだけどさ。どうせならジモティーと喋ってみたかった。なんでここに住んでるんですかって。

 続いて1022発の石見川本行に乗り込む。接続の関係で、石見川本までは行かずに1つ手前の木路原で降りることにする。