15駅目 沢谷
沢谷駅。もう駅に何の違いがあるのか分からん。
猿丸太夫。
沢谷駅も先ほどの石見松原駅のようなコンクリの待合室がある駅。もう雨も降ってたし周りの景色も見えないしで、全然印象に残っていない。今回は待ち時間が30分ほどなので歩いたりタクシーを使ったりせず、次の列車が来るのを一人寂しく待つ。
背後から見た図。怖い。
駅ノートにこれまでの行程を記す。
命の列車がやってきた、というかやっときた。時刻は1906だが、三次駅へ向かう終列車だ。終列車ということで初日の行程は次の潮駅で終わり。長かった…。
16駅目 潮
潮駅。ホントは江の川を臨む景色が凄いらしい。
潮払い。
つ、つ、着いた…。ようやくこの日最後の駅、潮駅に到達した…。降りしきる雨、厖大で長大な駅と路線、これまでの旅より疲れの度合は遥かに高い。とりあえず沢谷駅と変わり映えのしないコンクリの待合室に入ってみる。ここにもやっぱり駅ノートが。
???
駅ノート以外にも何か入ってる。
はっはー、潮駅に潮ってか。こんな辺境の地までどこかの提督が攻め込んでいるわけですね。俺は艦これについては全く知らないのでアレですが、こんなの撮ってないで一刻も早く入渠したい。
この日はここ、潮駅が最寄りだという旅館を一室押さえてあるのだ。当日の午前中に電話したにもかかわらず、快く応対してくださったので期待は大きい。潮駅を辞して歩き出す。
何これ冥界?
19時台の暗さじゃねぇよ。やっぱり島根はアレから17年経ってもパソコンがなさそうな雰囲気だ。パソコンどころか電気がねぇ。この先に本当に旅館はあるのか。狸か狐かに化かされているんじゃないのか。雨脚はさっきより強くなっているんじゃないか。そうとう疑心暗鬼になりながらもひたすら前に進む。
あああ!!! あ、灯りじゃあ!!! 救いの灯りじゃあ!!!!! ありがたやー。
心に巣くっていた疑心の鬼が一目散に逃げるくらい立派な旅館があった。
本日のお宿、大和荘。
お部屋も立派。
なんでもここは潮温泉唯一の旅館ということで、潮温泉に浸かるにはこの宿に泊まるほかないようなのだ。潮駅から徒歩圏内なのに、あと数ヶ月で鉄路での来訪が不可能になってしまうのはなんとも残念なこと。帳場に行くと入浴が20時までということなので、さっそく湯船に浸かって命の洗濯。うおお、とろけそう…。風呂から上がると、お待ちかねのお食事の時間。
豪遊…!! カイジさながら…豪遊…!! うまい……うますぎるっ……犯罪的だっ…………
ビールは五臓六腑に染み渡るし、カニやらお刺身やらはぷりっぷりだし、最高か。潮温泉いいじゃない。重ねて言うが、間もなく鉄路での来訪はできなくなるからな!! 食った!! 就寝!!
朝6時前の潮駅前。神秘的…?
フラッシュ焚いたらこれまた幻想的な雰囲気に。
三江線全駅下車の旅2日目。2日目のスタートは潮駅0607発の列車。だから早いって。朝から雨がぱらついていて、前途は多難の予感。この日はまず4つ先の伊賀和志駅へ。
江の川の向こうに小さな灯りが。
入線してきた。他に2人くらい乗り込んだから驚き。
17駅目 伊賀和志
伊賀和志駅。明るくなってきた。
鈴合せ。
潮駅を発って25分後、伊賀和志駅に到着。駅に降りるやいなや、こんな看板が目につく。
ブッポウソウ!!
ブッポウソウと言えば、小学校の頃の国語だったかなんだったか、「走れブッポウソウ」みたいな話があった気がするんだけど全く検索でヒットしなかった。記憶違いかもしれんけど、なんだか親近感が湧くじゃないの。次の列車は30分後、駅舎を出て左へ2分のところに観察小屋があるんならすぐ観察して戻ってこられる。どれどれ。
小屋は見つかりませんでした。15分くらい歩いたのに。でもブッポウソウはいるよ。あなたの心の中に。さ、ここはもう消化駅消化駅。続いて向かうは、この旅の中でも結構楽しみの度合と高度が高い駅。
18駅目 宇都井
宇都井駅。三江線に乗ってここで降りないのはモグリ。
塵倫。
0712、やってきました宇都井駅。一見何の変哲もない駅だが、廃線前に三江線の名物を拝んでおこうと多くの人たちが降りていった。百聞は一見に如かず。こちらを見てもらえれば、この駅の特筆すべき点が分かると思う。
地上20メートル、116段の階段の上にあるのがこの宇都井駅なのだ。うーむ、なんでこんなところに駅をつくっちゃったんだろう。エレベーターという文明の利器は備え付けられていないので、利用者は毎回この階段を上り下りする必要がある。ここが最寄り駅だったらツラいなあ。
見上げれば宇都井。
山の間に立派な橋がかかる。
全景はこんな感じ。わざわざ車で駅舎の写真を撮りに来る人もいたが、いやそこはちゃんと鉄道使えよ。両端をトンネルに囲まれたこの駅から次の駅まで歩く気にはならなかったのでここで1時間ほど待機。今度は階段を上って待合室に行くことに。
これまでのノートがずらり。
宇都宮から宇都井へ とか書いちゃってる。
116段上った先にある待合室にはこれまでの駅ノートの数々が残されていた。地元の人、遠くからの旅人、色々な人の想いが詰まった十数冊のノート。長きに亘って親しまれてきた駅の歴史を垣間見ることができる。多くの人々に愛されてるんだなぁ。なんて素敵なことなんだ。
人々の想いに触れながらほっこりした気分になっていたらトイレに行きたくなった。トイレは116段下ったところ。オゥシッコもといオゥシット。何だこのクソみたいな造りは。
こんな駅が丸見えの位置に案内板があっても。
0814、列車が来ましたよ。
19駅目 口羽
口羽駅。立派な待合室が。
神降し。
しっかり清掃が行き届いている。
ホタルの時季は確かに良さそうな雰囲気の場所。
0822、口羽駅に到達。これまで訪れた駅と比して立派な駅舎があった。中も小ぎれいなベンチがあったりして、三江線ユーザーの中でもこの駅が最寄りという人は恵まれている方だろう。
さて、ここからはトホホの徒歩。杜甫李白白居易。この日、初の歩きは約5キロ先の江平駅。これまでで最も長い区間を歩くことになるが、江平で捕まえなければならない列車は1053発。2時間半もゆとりがあるので、到達は余裕のよっちゃんである。それなので私は勇んで、といっても「んじゃま行ってみっか。どらどらよっこらしょっと」くらいの勢いで歩を進めていった。
県道294号は通行止め。
三江線の全通を祝う記念碑。
青空だったらもっと画になった。
せせらぎ以外何も聞こえない静けさ。
駅を出た途端に通行止めが目に飛び込んでくる。尤も、別方向に向かうので俺は別に通行止めでもいいんだけど、こういうのがありすぎてこの辺りの人々の暮らしがちょっと心配になってくる。
そして心配になるといえば、俺の朝飯である。いい加減お腹が空いたのだが、駅前にコンビニなんて気の利いたものは全くない。そんな俺の前に現れたのが昔ながらの個人経営店である。ああ!! ここならパンとかどら焼きとかあるだろう!! やったー!!
バナナて。
あれよ、パン。生活雑貨とかカップ麺とか日持ちのするものがメイン商品だった。愕然としながらかろうじて腹に溜まりそうなバナナをレジに持っていったら、朝早くから来た旅人を不憫に思ったのか、レジのおばちゃんが「持ってっていいよ。タダで」って言ってくれた。流石にそれは忍びなさすぎたので100円払ってきた。シュガースポットだらけで若干熟しすぎている気はするけどいいエネルギーになった。
ずんずん進んでいくと橋が現れた。この橋は江の川に架かっているのだが、Googleマップによると江平駅までは左岸でも右岸でもどっちを通って行っても辿りつけるようだ。橋を渡るか渡らないか。距離で言ったら橋を渡って国道375号を行くより、渡らずに手前の道を右に曲がって県道4号を進んだ方が近い。めんどくさいし曲がっちゃうか〜と思いきや。
また通行止めかよ!!
いくら通行止めになってるのが車両だけとはいえ、車で通るのが危険なところを歩きたくはないよね。ということでちょっと遠回りになっても橋を渡って国道を行くことにした。
三次市作木町へ。
川へ降りる道は立入禁止。
江の川のちょうど真ん中が県境になっているため、橋の上で広島県入りを果たす。広島側は国道で、島根側は県道というところに越えられない壁のようなものを感じるが、ガソリンスタンドがあったり、またしても個人経営店があったりとやはり対岸よりは栄えているのかもしれない。バナナだけじゃやっぱり物足りなかったのでこっちの商店にも入ってみた。
結論から言うとパンはあった。天然酵母パン。おいしいよね。でも身体が欲していたのはそんな甘っちょろいもんじゃないんだよ。これがハイキングなら喜んで食べるが、俺が挑んでいるのはエクストリーム・乗り換えというスポーツなのである。動物性タンパクをよこせと。とはいえ外に繋がれた犬を食うわけにもいかんので天然酵母パン(メープル)を手に取って、おじちゃんが立つレジに向かうとそこには、まさに眩しく光るものがあったのだった。
数時間に一本なのに待合室は立派。
眩しく光る「光り物」。
るんるん気分で歩いていくと薪置き場のようなバス停があった。しばらくバスが来ないことを確認すると、私はいそいそとビニール袋を広げた。数時間に一本のバスを待つために地元民が使っているであろう待合室で、先ほど購入したサバ寿司を頬張る頬張る。バス停でサバ寿司を手づかみで頬張る図は変態以外の何物でもないが、腹ぺこすぎてくっつきそうな背には代えられぬ。前を通る道路は流石に国道だけあってトラックやら乗用車やらビュンビュン走っていった。よかった通報されないで。
トンネルばかりだ。
道路は川に沿ってどこまでも続く。
対岸に集落が見えてきた。
また橋を渡る。
トンネルを抜けひたすら江の川沿いを歩く。歩く。歩く。延々と変わらない風景。すれ違う車。知らない天井。シンジ君さながら一人孤独に歩き続けると、対岸の木々の間にようやく見なれた駅名標を発見した。
20駅目 江平
江平駅。人っ子一人いない。
五龍王。
待合室内。忘れ去られた麦わら帽が切ない。
電柱に掲げられた看板は文字が消えかかっている。
ゆっくり歩いてきたのに列車の時刻まで1時間くらい余裕がある。探検しようにも周りには集落があるだけなので、この日の宿を探すことに。そもそも宿の絶対数が少ないのに行き当たりばったりで旅に出たもんだから、もしかしたら本当に駅寝をするはめになっていたかもしれない。この日も、ネットで見たら既に予約でいっぱい。ダメ元で江津駅前のビジネスホテルに電話したら1部屋空いてたという綱渡り。セーフ。
なんてことをやっていたら列車がやってきましたよっと。次は石見川本行の列車で石見川本駅へ向かい、そこから歩いて隣の因原駅へ行く。
江平駅にやってきた列車。平日の日中だけあってガラガラ。
今度は鉄路で到達した石見川本駅。
石見川本駅の入場券。これもそのうちなくなってしまう。
もちろんきっぷに下車印も押してもらう。
前日やり忘れたこと。というか思いつかなかったことがこれ。ここは駅員さんがいる駅なので入鋏してもらうことができる。というわけで意味もなく入場券を買い、スタンプを押してもらう。これで石見川本は思い残すことなく去ることができる。さらに幸運なことに駅前にはタクシーが停まっているではないか。歩くのも億劫だったので金に物を言わせて次の因原駅まで一気にワープしてしまう。
21駅目 因原
因原駅。石見川本に負けず劣らず立派な駅舎。
剣舞。
因原駅はまるで人の営みが全くなくなってしまったかのような、もの寂しげな雰囲気が素晴らしい。どれくらい素晴らしいかというと、これらを見てほしい。
コントラストが素晴らしい。
かつては駅員さんが立っていたであろう窓口。
秒速5センチメートルのような雰囲気。
反対側のホームに人が立つことはもうない。
閉まっている駅事務室は運送会社の事務所となっているのにもかかわらず、人ッ気が全くない。悠然とした時の流れが徐々に人の空間を朽ちさせていっている。
さ、浸るのもいいけど、ここいらで昼飯を取っておきたい。ここまで乗せてきてくれたタクシーの運転手さん曰く、駅の反対側に道の駅があるらしいのでちょっくら行ってみる。
一応路地になっているけど下水が臭う…。
素朴な道の駅。
この旅で初めて見たかもしれない。
あったか〜いカレーライス。
ここ通っていいの? っていう下水の横の路地を突っ切ると大きな通りに出た。そしてすぐそこに「道の駅インフォメーションセンターかわもと」があった。でもその隣にもの凄く久々に見た人類の叡智の結集(コンビニ)があったのでそっちに向かう。
ただのローソンかと思いきや、+ポプラですって。基本的にローソンなのだが、ポプラの要素はお弁当にある。お店で炊いたご飯をその場で詰めてくれるポプラならではのシステムが継承されているのだ。コンビニ弁当とはいえようやくちゃんとしたご飯にありつけた。腹もこしらえたし、エクストリーム・乗り換えに戻るとする。1351発の列車で2つ先の石見川越駅へ。