ぼくは夕張に行きたかっただけなのに〜翔んで旭川〜

 石勝線夕張支線が2019年3月末日をもってその役目を終える。かつて炭鉱で栄えた街の動脈の一端を担った鉄道もこうなってしまえばあとはその日を待つのみである。盛者必衰。いや待てしかしそれならば乗りに行こうじゃないかと、札幌行きの航空券やホテルやらを手配した矢先の9月6日に北海道胆振東部地震が発生した。

 災害の時に気になるのが交通網だ。お願い、止まらないでJR。あんたが今ここで止まったら俺の旅行はどうなっちゃうの。線路はまだ残ってる。次回、JR死す。

 やっぱり止まったJR。諸行無常。さらに空港閉鎖と来たもんで、これはいよいよダメかもしれんかった。刻々と迫る旅行予定の9月17日。だがJRの鉄道マンは復旧作業に尽くし徐々に運転再開してきている。ならばもう行ってしまおう。旅行中に夕張支線も復旧するかもしれぬ。かくして急遽予定を変更して北海道を巡ってきたのであった。

羽田空港


 JALである。

 いつものLCCでなくJALである。私も遅ればせながらマイラーデビューしたのだよマイラー。しかも20代限定のJALカードestに入ったものだからサクララウンジだって使えちゃう。ドキドキラウンジうれしはずかし初体験

サクララウンジ


 フォー!!

 ま、まぶしい…。シルバーの輝きは庶民の目をくらませやがる。このプレートが掲げられた扉を越えると…

サクララウンジ
エスカレーターを上がり…
サクララウンジ
廊下を突き進み…


 なんとも高級感のあるシャレオツ空間が広がっているではないか。こっぱずかしくて撮れなかったけど、エスカレーターの先にはカウンターがあって、お上品なJALのスタッフがあいさつしてくれるぞ! そのカウンターの前にICリーダーみたいなのがあって、そこに搭乗券をかざすと、ラウンジに入る権利がある人は通っていいんだと教えてくれる。

 無事通過したものの緊張している田舎者の俺は間違って最高級ラウンジに行こうとしてしまったのだが、すかさずスタッフが「テメェなんかが入っていい所じゃねぇんだチンカス」を最上級に丁寧な言葉にしてサクララウンジへ案内してくれたのであった。

サクララウンジ
搭乗待ちの上客の乗客
サクララウンジ
ビールも飲み放題だが絶対眠くなるので控えた


 ゆったりとした時間が流れる上質な大人の空間。それがサクララウンジだった。ビールもジュースも飲み放題の上、柿ピー的なツマミもあればコンセントやら新聞だってある。仮にクーデターで祖国がなくなって空港内で生活するハメになってもここならトム・ハンクスも困らない。あ、でも会員じゃないから入れないか、そりゃ納得いかんのう…(92へぇ)。

サクララウンジ


 おや、そうこうしているうちにフライトの時間だ。今回の行き先は旭川空港。地震の影響で無償振替をしてくれるというJALの粋な計らいで新千歳から変更したのであった。とりあえず北へ行くぞ北へ。



道連れ、旅は

旭川空港


 果てしない大空と広い大地のその中に辿り着いた。時刻は正午過ぎ、うーん、9月の北海道はいくらか寒いかと思いきや暑いくらいだ。こぢんまりとした旭川空港、鉄道は通っておらずバスでJR旭川駅へと向かう。乗り込んだバスは旭川電気軌道という会社が運行しているもので、名前から分かるとおり前身は軌道を運行していたようだ。バスはその名にあやかって専用路を走るわけでもなく、ひたすらのんびりとした一般道を突き進んでゆく。

旭川電気軌道
旭川電気軌道のバス。旭川駅へ。
旭川空港
バスの車窓から臨む旭川空港。


 2年ぶりに降り立った旭川駅は、道北方面の交通の要衝というだけあって変わらぬ賑わいがあった。今回の鉄旅はここがスタートの地となる。

 今回は夕張支線に乗れない代わりに、まだきちんと乗れておらず、かつ、既に全線で運転を再開している宗谷本線を攻略していく。もちろん駅舎の撮影と駅スタンプの押印はいつも通り行うが、今回の旅では新たに加わるモノがある。それがこれである。

わがまちご当地入場券
わがまちご当地入場券旭川駅(1枚目)。


 わがまちご当地入場券〜

 説明しよう。わがまちご当地入場券とは、JRの駅がある道内の自治体と連携して発行している記念入場券だ。北海道には毎年のように行っているが、なにぶん去年行った直後にJR北海道が発行を始めやがったから、発売開始からかなり間を開けて集め始めることになってしまった。

 全部で101駅分あり、単純に1枚ずつ買っていったとしても、17,170円かかる。しかもタチが悪いことに切り離すタイプの応募券がついていて、これを10枚集めて送ると別のカードが送られてくるという代物。それも5種類ほどあるからコンプリートへの道は果てしない。さらにみどりの窓口で扱っているならいいが、駅周辺のスーパーとかでしか買えない場合もあるから鉄道だけでは厳しいのも事実。

 先は長そうだが、JR北海道には頑張ってもらいたいのでお布施代わりに数枚ずつ買っていくことにする。 ところで、今回の旅はもう一つ、いつもと違うことがある。それがこれである。

Fくん


 なんと久々の2人旅なのだ。彼は栃木県内で働く、同業他社のFくんである。テツという訳でもないのに一度私の不毛な旅を体験してみたいなどとのたまう物好きだ。彼は青森の友人に会いに行ったその足で北海道にやってきた。ということで旭川駅現地集合という無茶苦茶っぷり。だから北海道だというのに地元の宇都宮駅でばったり出くわした感が否めなかった。

 ともあれ無事に落ち合えたのでここから2人で一路、北を目指す。Fくんとの珍道中はどうなってしまうのか。

 FくんのFとは何なのか、藤子先生のFか、画太郎先生のFなのか、はたまた復活のFなのだろうか、すべてはFになる…。



行くべ、道北。

豚丼
旭川しょうゆ豚丼。
豚丼
帯広名物じゃないの?
Fくん
アクションカムに興味津々なFくん。
美深駅
美深町の交通ターミナル・美深駅。
 

 1335発特急サロベツ1号は早速10分遅れで旭川を出た。毎度のことながら、この日の予定もギリギリダイヤで立てているため、遅れが多発するとその後の行程に影響するから勘弁してほしいものである。尤もあんな大地震の直後にもかかわらず平常通り運転しているだけ文句は言えないが…。

 ま、何にしても腹ごしらえである。私は旭川しょうゆ豚丼という、本当に旭川名物なの? と思ってしまう豚丼をチョイス。Fくんはフェアで置いてあった釧路かどっかの駅弁を選び、もはや旭川ですらない。それぞれ腹を満たすころにはいよいよ人気のない場所を走っているじゃないの。特急に乗ること約1時間、美深駅に辿り着いた。




 

 美深駅はかつて美幸線の始発駅としても使われていた。Wikipediaによると、美幸線は美深駅を含め4駅しか開業せず、北見枝幸まで至るはずだった残りの区間は未成線のまま廃止されてしまったという。廃止は1985年。国鉄からJRに転換せんとして赤字路線が廃止やら3セク化やらされていった時期に、御多分に洩れず整理されてしまったようだ。

 往時を忍ぶように駅舎の2階に美幸線の展示室が設けられていて、時間に余裕がある人はじっくり見ていっても面白いかもしれない。

わがまちご当地入場券
わがまちご当地入場券美深駅(2枚目)
ゐわむら
窓口前に備え付けられたスタンプ。(撮影:F)
美深駅
美幸線の歴史の一端に触れる。


   ところで、Fくんはこの駅に併設された売店でこんなものを買っていた。

森の雫


 白樺樹液100% 森の雫

 分からん。これが何なのか分からん。飲む森林浴とは一体? おそるおそる一口もらっても、うーん、砂糖水のような、ただの水のような、語彙力の乏しい私には適当な形容ができず申し訳ない。ぜひ読者諸賢には美深駅まで行って試していただきたい。

 さて、時刻は1530時過ぎ、またしても遅れて入線してきた普通列車でこんだ、音威子府駅へ向かう。

美深駅
美深駅は2面ホーム。
キハ
4327Dで音威子府へ。


音威子府に人いねぇっぷ…

 

 音威子府駅に着いたのは10分遅れの1615時。駅スタンプを押したり入場券を買ったりするには1610時までのみどりの窓口に行く必要がある。到着した段でもう閉まっていてもおかしくないのだが、おそらくこの窓口の営業時間というのはこの普通列車の到着に合わせてあるんだな、駅員さんはちゃんと対応してくれた。ご当地入場券を2枚買うと言うと、駅員さんがすかさず教えてくれた。

 「あと1枚買うと、通し番号が5555ですよ」

 なんというか、分かってらっしゃる。こちらのツボを。こんなこと言われたら追加で買うしかない。優しさとたくましさを兼ね備えた音威子府の駅員さんに幸あれ。

わがまちご当地入場券
わがまちご当地入場券音威子府駅(3枚目)
音威子府駅
音威子府駅。
音威子府駅
天北線の展示室があった。
音威子府そば
名物・音威子府そばは…
音威子府そば
なんと当面の間臨時休業!
 

 音威子府駅からもかつては天北線という路線が延びていた。同じくWikipediaによると天北線は南稚内駅まで続いていて、元々こちらが宗谷本線と呼ばれていたようだ。現在の宗谷本線が開業してから切り離され、JR転換後2年ほどで廃止されたらしい。平成に入ってからのことなので割と最近のような気がするが、それでも廃止30年である。私も気付けばアラサーだ。

 またしても併設されたミュージアムで往時を偲んだ後は、日本一有名な駅そば、音威子府そばでも食うかと思いきや、臨時休業ですってよ。まいったな。乗ってきた列車がここで1時間停車するので近くの道の駅に行ってみることに。なんか小腹を満たすものもあるだろう。

道の駅おといねっぷ
人の姿がほぼない道の駅おといねっぷ。
車窓
一見さんに分かりづらい千見寺さん。
 

 駅から歩いて5分かかるかどうかといったところに位置していた道の駅おといねっぷは売店をたたんでいて、機能しているのはトイレと待合室、それにスタンプくらいのもので何とも寂しい雰囲気が漂っていた。マジかよ。

 そこにいたのは道の駅巡りをしているような人くらいで、ジモティーの姿はなかった。それもそのはず、音威子府村は人口800人弱の超過疎自治体なのである。工芸の街づくりを推進しているらしい。頑張れ音威子府。

 そんな道の駅で、シャッターが下りてしまった売店を茫然と眺めていると、たまたまやってきていた掃除のおばちゃんが、売店行きたいなら向かいの「ちけんじさん」にしてね、なーんて教えてくれたのだが一見さんには「千見寺さん」は分かんねぇよ。この辺りのコンビニ的な役割を果たしているんだろうねぇ、千見寺さんは。道の駅の入場券なんかもここで扱ってるから、本当に道の駅の売店の機能が移ってきたような感じですかね。

 そして日も大分傾いた1707時、列車は再び北へと動き出す。



この前日は丸太押し相撲の大会が開かれていたらしいですよ

音威子府駅
音威子府から天塩中川へ。
所木駅
天塩川と併走する。


 次に向かうのは天塩中川駅。ここはもう完全にご当地入場券を買うためだけに降り立つ駅だ。



天塩中川駅
天塩中川駅。
天塩中川駅
駅前の賑わい。
Qマート
入場券を取り扱うQマート。
沿線
Qのポーズ。


 1743時、天塩中川駅に到着。降り立った第一印象は「あ、やっちまった」である。

 先ほどの音威子府もそうだったが、人の気配がまーありゃしない。無人駅だからなおのこと。ここでは入場券を扱うQマートに行けば用事は終わり。ちょっと歩くのかと思いきや、ものの1分で到着してしまう。

 あまりのあっけなさにFくんと「Qのポーズ」でセルフィー。なんだよQのポーズって。

わがまちご当地入場券
わがまちご当地入場券天塩中川駅(4枚目)


 さて入場券を買ってしまうと1913時の列車まであと1時間以上ある。周辺を散策してみても何があるわけでもないので駅に戻ってみる。そこでFくんが発見したのがこれである。

丸太押し相撲


 丸太押し相撲発祥の地、丸太押し相撲発祥の地て言われてもー!!(ガビーン)

 まず丸太押し相撲が何なのかが分からない。発祥の地以外で競技は行われているのだろうか? 謎は深まるばかりである。ちなみに発見者のFくんがわざわざ検索したところによると、ちょうどこの前日に大会が開かれていたようで、せっかく来たのに実に惜しいことをした。生丸太押し相撲を見られる日はあるのだろうか。

ナカガワのナカガワ
ナカガワのナカガワを読むFくん。
天塩中川駅
わざわざ反対側のホームに行ってみました。(撮影:F)


 駅舎内には(思いの外ちゃんとした)中川町のフリーペーパー「ナカガワのナカガワ」が置かれていた。ナカガワのナカガワとは中川町に住む(?)ナカガワが見た中川の中側であり、中川(町)のナカガワのことであり、ナカガワにとっての中川(町)のことであり、でも町を流れているのは天塩川なのである。作った人はセンスあるわ。そしてすっかり真っ暗になった19時過ぎ、特急宗谷がやってきた。

特急宗谷


泊まれる駅・天塩弥生



 札幌行きの特急宗谷で向かうのは名寄駅。宗谷本線の主要駅にして、この日の宿泊地がある駅だ。



 2030時、流石に冷え込む名寄駅に到着すると、宿の方がお迎えに来てくれていた。今回泊まるのはこちらの宿だ。

天塩弥生駅


 駅じゃん! と思うかもしれないが、そう、駅なのである。

 正確に言うならば、過去に旧深名線の駅があった場所に建つ、駅を模した宿泊施設なのだ。元鉄道マンだったご主人が旅人を迎える施設として2016年にオープンしたという。旅好きの職場の方から聞き、いつか泊まってみたいと思っていたところだったのだった。

 宿では既に別の旅人たちが酒宴をしている最中で、非常に賑やかである。我々は早速チェックインを済ませ、テーブルに着く。

天塩弥生駅
宿泊者名簿と寝台券。細部まで実に凝っている。
Fくん
美味しい料理に舌鼓を打つFくん。


 手作り晩ご飯は最高に美味いし、なんというか、あったかい。いつも旅の時はめんどくさくてビジネスホテルとかに泊まってしまうのだが、同じ旅人や地元の方々とコミュニケーションしながらテーブルを囲むというのも実に楽しい。特にこの宿は鉄道駅を模しているだけあってテツに造詣の深い方々も沢山いるから、話していて飽きることがない。そういう意味でFくんはよくついてきたなと思う。ありがとう。

 なお、公式Facebookにはその時の様子がばっちりと。

 時間も気にせずわいわいやりながら、時折夜風に当たりに外へ行くと満点の星空が広がっている。喧噪から解放され大自然に思いを馳せるというのもいいものだ。興奮冷めやらぬまま夜は更けていく。

天塩弥生駅
テツグッズ溢れる「キオスク」も。
天塩弥生駅
何故か風呂には女湯ののれんが。嬉々としてくぐる。