♪雪の降る街を〜 わわわわ〜

 網走に行くんだ今日は。帯広から? 帯広からだって行けちゃうんです。そう、アンポン(タン)ならね。アホの極み男は精神が大人じゃないからさぁ、時刻表で行けるなら行くベッキーなんです。かようにテンションがおかしいのは、この日もろくに寝ないまま0651時帯広発の2428Dに乗るために早起きしたから。折角のホテル日航の豪華なブッフェも食べられずだよ。そして朝から雪だよ。どうなってんだよ。まずは新得駅へ向かうにしても1時間かかるよ。うへぇ。

帯広駅
雪の舞う帯広駅。まだ7時前ですよ
帯広駅
ホワイトボードに手書きで案内
キハ40
タラコ色のキハ40で新得へ
きっぷ
入𨦇印やら下車印やらで徐々に埋まってきた


 新得から東鹿越の区間は2016年の台風でだいぶズタボロにされてしまったため未だに代行バスが走っている。維持困難な路線にも選ばれているし、満身創痍のJR北海道のことだからいずれこのまま廃止してしまうのだろう。たまたま鉄道時代に一度通過しているが、代行バスでは初めての通過となる。東鹿越に行くまでに中間には落合と幾寅の2つの駅しかないため、代行バスで降り潰すことにする。まずは0759時、新得から2つ先の幾寅駅へ。バスでまた1時間だって。うひぃ。

新得駅
雪化粧の新得駅
代行バス
根室本線の代行バス



 私と地元民と思しきおばちゃんを乗せ、代行バスは狩勝峠へと入っていく。バスになったからこの有様なのか、元々これくらいの規模だったのかは定かではないが、いずれにしてもこの利用者数では廃線は必至である。でも信越本線のように新幹線も通っていないから廃止したらツラいぞ〜。ただこの山越えの難所っぷりを考えると、今まで鉄道が走っていたことの方が凄いことだったのかもしれない。

代行バス
雪の山道へと入っていく
朝食
前日の豪華なブッフェと打って変わって質素な朝食
代行バス
狩勝峠を登っていくと見渡す限りの大地が広がる
狩勝峠
狩勝峠の頂上。列車だと見られないものだ


鉄道員のロケ地に鉄道はもうこない

落合駅
バスの中から落合駅。幾寅に行ってから再び来る予定
南富良野町
南富良野町の市街地?
幾寅駅
幾寅駅。数人乗ったが降りたのは私だけ
幾寅駅
「幌舞駅」と掲げられている


 誰もいない落合駅を経由して、幾寅駅には9時くらいに着いた。日高本線のときもそうだったが、列車の来なくなった駅にバスで乗り付けるのはやはりいかんとも言えぬもの悲しさがある。木造駅舎を押しつぶしそうな雪もまた寂しさを増長している気がする。さてこの幾寅駅、駅名標のあるべきところに「幌舞駅」と掲げられている。果たして駅舎へ入っていくとその真相へとたどり着く。

幾寅駅
鉄道員の展示コーナーが
幾寅駅
架空の駅なのに作り込みが凄い
幾寅駅
結構ちゃんとした展示がされている
幾寅駅
ホーム側から見た幾寅駅


 ご覧の通り、当駅は映画「鉄道員(ぽっぽや)」のロケ地として使われていたようで、駅舎内には当時の撮影小物などを展示するスペースが設けられていた。南富良野町という小さな街に高倉健がやってきて映画の撮影をするというのはそれだけで街の活性化につながったのだろう。街が大いに賑わったのは想像に難くない。20年以上前の映画をこうして後世に残すのはいいけど管理人も置かずにこんな開けっぴろげで大丈夫なのか。今や劇中の幌舞線同様に幾寅駅の廃止も秒読みだから、わざわざ盗みに入る人もいないか。

幾寅駅
のりば案内。手書きの看板が味を出している
幾寅駅
ただ、列車が来ることはもうないのだろう…


 さて、この後の予定としては1137時に出る代行バスを落合駅で捕まえることになっているから、幾寅から落合までの移動を含めて2時間半ほどゆとりがある。ので、幾寅駅周辺を散策することにする。まずは駅の隣にある南富良野情報プラザでご当地入場券を購入することにする。

南富良野情報プラザ

わがまちご当地入場券
わがまちご当地入場券幾寅駅(32枚目)



 この情報プラザにはちょっとした売店があり、常備券や幌舞駅の記念きっぷなんかを売っていた。観光協会が委託を受けて運営しているようで、人のいい職員さんが応対してくれた。鉄道員ロケ地の記念スタンプはあるものの、幾寅駅の駅スタンプはかなり昔に盗難に遭ってないことも教えてくれた。

 この後は落合駅まで移動しなければいけないため、会話ついでにこの辺にタクシーがあるか聞いてみると、「ない」との答え。タクシーがない街があるなんて想定外だったから面食らっていると、なんと職員のおじさんが時間に合わせて車を出してくれるという。渡りに船とはまさにこのこと。ありがたく甘えさせてもらおう。

 ただ、落合に行くにはまだ時間があるため、とりあえず幾寅周辺の道の駅やら郵便局やらに行ってくることに。雪道を歩くのにもだいぶ慣れてきたけどやっぱり人通りや車通りは少ない。南富良野町の人はどこにいるんだろう。

南富良野町
道の駅へ至る道。人はいない
道の駅南ふらの
道の駅南ふらの。人はちょっといた
剥製
ヒグマの剥製。なんかガリガリじゃない?
エゾシカジャーキー
エゾシカジャーキーなるもの。結構イケる


完全下車の代行バス



 時刻は大体11時。一段落ついたおじさんの元を訪ねると、快く車を出してくださった。私がメディア関係の仕事をしていることを話すと、根室本線が不通になる原因となった台風の時に、記者やクルーを街で受け入れた話などをしてくれた。災害報道は、発生時はもちろんだが、その後を追って初めて成り立つ側面もある。このときに取材したクルーは是非その後の落合駅や幾寅駅のバス代行の実情を知らしめてほしいものだ。

 さて、送ってもらった落合駅には立派な跨線橋があるも、その入り口は封鎖され、対面ホームには誰にも踏まれることのない新雪がうずたかく積もっていた。列車の代わりにやってきた代行バスで1137時、バスの終点・東鹿越駅へと向かう。

落合駅
再訪・落合駅
落合駅
かつては賑わったであろう待合室
落合駅
時刻表にも代行バスの記載がある
落合駅
細い廊下を抜けるとホームに出られる
落合駅
跨線橋は封鎖されてしまった
代行バス
今度の代行バスはそれなりに乗っている



 東鹿越駅にて代行区間全ての下車を完了することとなる。朝と違ってそれなりに乗客がいたのがびっくり。やっぱり鉄路必要じゃない?

 ところでこの東鹿越駅は2015年までの利用者は1名以下ということで廃止される予定だったのだが、鉄道と代行バスを乗り継ぐためのターミナルとして生きながらえることになった。東鹿越より手前で降りない限り必ずこの駅で乗り降り、ないし乗り換えすることになるから2016年以降、利用者数がグンと上がっているのが面白い。尤も、1人以下だったのが50人程度になっただけで、JR北海道の経営状況を考えると決して安泰と言えない数字ではある。しかも万一鉄路が復旧したらまたただの通過点となるだけだから、どっちにしろ廃止される運命にあるのだろう。

踏切
列車は来ないけど踏切では止まる
東鹿越駅
絶対に降りることになる駅
東鹿越駅
待合室はこぢんまりとしている
東鹿越駅
賑わいがあるように錯覚してしまう
サボ
新設したサボだろうか
駅名標
案内図の下から幾寅駅の国鉄式駅名標が…


 しばらくぶりに鉄道に戻って今度は富良野駅を目指す。時間にして40分、まだ昼過ぎだ。最終目的地の網走に着くのは23時だからあと10時間以上もある。なんて充実しているんだろう(白目)

キハ40
久々の鉄路で富良野へ
根室本線
一面の銀世界が車窓に広がる


一心不乱のふらふらの富良野

富良野駅
富良野駅に到着
富良野駅
すっかり青空になっている



わがまちご当地入場券
わがまちご当地入場券富良野駅(33枚目)

 

 寝不足と寒さでふらふらの富良野。乗り換えに50分もあると、ゆとりと駄洒落が出てくるのだ。そしてふらふらの割に食欲も出てくる。駅前を散策してもいいのだが、どうせなら駅舎内に店舗を構える、これまたまあ昔ながらの立喰そば屋で食べてみることにする。月見でもわかめでも山菜でもきつねでも天ぷらでも400円。だったら天ぷらが最もコスパがいいと思って注文したところ、かき揚げとも言いがたい謎の天ぷらがのったそばが出てきた。天かすを固めただけの、実質たぬきそばかもしれない。これで天ぷらと言い張る感じ、実に素晴らしい。

 おなかも膨れたところでこんだ、旭川駅へ向かう。富良野から旭川ってのも意外と時間がかかるもんで、約1時間20分。近いようで遠いなぁ。ところでマイタウン列車って何じゃろか。普通の列車と何か違うとこあるのだろうか。

立ち食いそば
くたびれっぷりが素晴らしい
天ぷらそば
謎の天ぷらがのったそば
富良野駅
こんだ、旭川へ
マイタウン列車
マイタウン列車ラベンダーとは

 

 以前は夏に来て緑が多い印象があった富良野線だが、冬は冬で銀世界と化した見渡す限りの丘陵地が実に美しい。そして列車は雪が積もっていようと、ものともしない。粉雪を巻き上げながら走る列車には感動すら覚える。やっぱり冬こそJRだ。

 ディーゼルエンジンの無骨な音を響かせながら富良野路を往く汽車に揺られ、安息のひとときを過ごしていたのもつかの間、入線した西神楽駅を一向に立つ気配がない。慌てて時刻表を見ると発車時刻まで4分程度の交換待ち合わせ時間があるではないか。4分もありゃあダッシュで降りて駅舎を撮影しなければならないのだ。他の乗客の目線がしびれるぜ。何事もなかったかのように同じ列車に乗り込んで1455時、旭川駅に到着。

富良野線
木を撮ったのではなく舞い上がる粉雪を撮ったのです
富良野線
汽車はこんな雪原も往くのです
西神楽駅
駅の後ろに地味に写った列車から降りてまた乗った
西神楽駅
冬の陽光は美しい

 

 旭川でようやく、網走へとたどり着く石北本線に乗り換える。とはいえご当地入場券を集めるのが目的だから、一気に網走に行くことはせずに極力中間の駅で降りていく。

 まずは北海道唯一の特別快速・きたみで上川へ行くことにする。ちなみにここ旭川は前回の旅で出発地点だったため既にご当地入場券は手に入れている。今回はどこまで行ってもFくんが現れることのない孤独な旅路だ。1537時、特快だけあって普段よりは賑わっているだろう車内に一人乗り込む。

旭川駅
数ヶ月ぶりにやってきた旭川駅
ザンギとハスカップサイダー
セブンに北海道っぽいものが売っていた
キハ54
北海道唯一の特別快速
キハ54
サボにもきちんとその表記がある


ご当地入場券を集めなければならないからこそ集めなければならない

日暮れ
 

 涙がこぼれ落ちそうになるほど煌々とした夕焼けを見せつけられる。だからこそ涙がこぼれ落ちそうになる(進次郎構文)。特快に乗ること約50分、だいぶ日が暮れてきたところでまずは上川駅に着く。

 

 1625時、初下車となる上川で降りると目に飛び込んできたのがDECMOの試運転車両。えっこれって函館本線の山線で使われるヤツじゃないの?? いずれは石北本線とかでも使われるの??

 疑問は尽きないが、こんなところで時間を食ってるバヤイじゃない。まずはあと10分ほどで閉まってしまうみどりの窓口でご当地入場券を購入し、スタンプを押しておかないと死んでしまう。上川は近くのセコマでもご当地入場券を取り扱っているからそちらも買いに行く。

 無事に入場券を手に入れられた喜びに上気するも、流石に夕方になると北海道は果てしなく寒い。窓口も閉まった上川駅に次の列車が来るのは1745時。何もない場所で1時間以上過ごさなければならないので、つらみが酷い。マヂ無理。

わがまちご当地入場券
わがまちご当地入場券上川駅(34枚目)

わがまちご当地入場券
わがまちご当地入場券上川駅(34-2枚目)

DECMO
試運転中のDECMO。こんなところで?
セコマ
駅から少し離れたセコマでご当地入場券を購入
上川駅
一応駅舎です。平たくて分かりづらいけど
上川駅
駅の入り口はこんな感じ
 

 すっかり真っ暗になった上川駅。時折学生さんが普通列車に乗っていくのを除けば、本当に人気は感じられない。比較的大きな駅舎だからこそ、かえってその寂れっぷりが色濃く出てしまう。本当に特急大雪3号はやってくるのだろうか…。一人で北海道にいるとそんな不安も増してくる。だからレールの軋む音とヘッドライトの灯りが遠くから徐々に近づいてくるとそれだけで安心するのだ。この特急大雪で遠軽駅へ、1時間10分の夢紀行。駅舎で待つのは長いけど、列車に乗るのは短いんだよなぁ。

上川駅
独特なスノーシェッドがある
上川駅
無事にやってきた大雪3号
きっぷ
上川から遠軽へ
遠軽駅
遠軽に到着。見送る駅員さんがステキ

 

 石北本線といえば白滝シリーズでお馴染みだったが、それも2016年にほとんど廃止され、今ではオリジナル白滝駅を残すのみとなっている。この大雪3号はその白滝にも停まらないため遠軽まで直行するわけだが、遠軽駅には上川よりも格段と寂しい雰囲気が漂っていた。間もなく元号が変わるというのに昭和の時代に取り残されてしまったかのよう。次の列車が来るまで約1時間20分。とりあえず窓口でご当地入場券を購入してから夕食を取りに行こう。

遠軽駅
昭和のまま時が止まった改札口
遠軽駅
駅名標も味わい深い

わがまちご当地入場券
わがまちご当地入場券遠軽駅(35枚目)

 

 遠軽の何がアレって、駅前に出てもマジで一切賑わいを感じられないところだ。商店街のネオンが寂しさを一層際立たせているし、郵便局はかろうじてゆうゆう窓口が開いているが一体誰が利用するんだろう(私は風景印をもらったが)。

ゆうあい通り
微塵も友愛を感じない
遠軽郵便局
遠軽郵便局。ゆうゆう窓口があるのが凄い
 

 街なかを彷徨するも余りにも寒いのでふとiPhoneを見ると氷点下8℃だという。凍るよ。凍死の危機に瀕しながらも強い闘志を持って歩き続けると…

遠軽軒
 

 あ、ああ…!! ああー!!

 マッチをこすって現れたわけじゃないから幻ではないだろう。あの灯りは定食屋のそれだ。その名も遠軽軒。ビバ遠軽軒。地名を冠するなんてよっぽどの店舗だろう。街なかには全くと言っていいほど人の気配がなかったにもかかわらず店内には3グループくらいいた。ある意味地域のコミュニティスペースなのかもしれない。皆さん楽しくわいわいやっているところ、私はと言うとカウンターに座ってメニュー表になかったカレイの唐揚げ定食を黙々と食べていました。うーん、ボリューム感が凄い。

遠軽軒
フツーの定食屋さんだ。ありがてぇ
遠軽軒
こういう何でもない定食がうれしい


網走ロマン紀行



 夕食を済ませて遠軽に戻って今度は普通列車で北見駅に向かう。また1時間20分の乗車時間だが今度は普通列車だから超寒い。列車に乗ったのに凍え死ぬ。でも待ち合わせで停まった生田原駅ではしっかり降りて写真撮ってきた。我ながらタフだ。

遠軽駅
スイッチバック駅だから同一方向に2駅が
遠軽駅
時間を忘れて撮っていて乗り遅れそうになった
生田原駅
生田原駅。待ち合わせ時間で降りる
生田原駅
意外としっかりした待合室だ…




 北見駅に着いたのは2135時。道東の中でも比較的大きな都市というだけあって駅前には活気があった。何よりビルがあるというのが都会の証左である。でもWikipediaを見ると、1日の平均乗車人数は700人程度なんだって。この規模の都市でこの数って、こりゃあ鉄道は厳しいわ。お前ら使いたまえよ。

わがまちご当地入場券
わがまちご当地入場券北見駅(36枚目)

北見駅
北見駅。積もった雪はサボを刺すのに使う
北見駅
誰もいないホームにホーロー看板が主張をする
北見駅
三角屋根がかわいらしい北見駅
北見駅
やっぱり氷点下ですよ


 いいかげん眠気と寒さと疲れで倦怠感の塊であるが、あと一踏ん張りである。2209時、特急オホーツク3号網走駅へ向かう。北見駅でほとんどの人が降りてしまい、終点・網走へ向かう人影はまばらだ。


北見駅
北見駅でみんな降りた
特急オホーツク
この日最後の乗車
網走駅
北見駅と違ってがらんとしている
網走駅
これはもう見た目が寒すぎる


 2300時、網走送りの刑が無事完了し、長かった一日がようやく終わった。網走駅の駅名標が縦書きなのは、出所した受刑者が横道に逸れないように、というのは余りにも有名な話であるが、もうテツという業を背負ってしまったから人生横道に逸れてばかりである。

わがまちご当地入場券
わがまちご当地入場券網走駅(37枚目)



 網走は遠軽とかと比べると開放感はあるけど寒々しさは群を抜いている。近くに網走川があるから、オホーツクの冷気が流れ込んで余計に空気が冷たいのだろう。深夜帯ということも相まって人っ子一人いない網走の街をとぼとぼとホテルに向かって歩く。

 ホテルノースランド日航に比べたらグレードは落ちるが、身を寄せる宿があるのは本当にありがたい。実はツアー予約の段階でこのホテルはキャンセル待ちだったのである。ここが押さえられなかったら収監されるほかなかった。翌日はいよいよ最終日。もうちびっとだけ続くんじゃ。

網走川
網走川の冷気が体感温度をさらに下げる
網走ロイヤルホテル
網走ロイヤルホテルという名のビジネスホテル