北海道リターンズ

 行くぜ夕張!!

 前回の北海道訪問から約4カ月。私は再び北海道行きの航空券を手にしていた。廃線まで残り2カ月あまりとなった夕張支線。前回は地震の影響で泣く泣く断念した夕張支線。雪がヤバいであろう中を走る夕張支線。その夕張支線を制覇するため、私はまたしてもJALに飛び乗り厳冬の北海道へと向かったのであった。

羽田空港


 JALPAKである。

 前回は航空券のみ手配したのだが今回はツアーにした。というのもJRノリ♪乗り♪北海道 (魚拓)というキャンペーンが開催されていたからである。このページをご覧になっていただくと分かるが、北海道の鉄路の大半に乗ることができるフリーパスが付いてくるのだ。さらに宿(朝食付き)もセットになっているため至れり尽くせりである。こんなに贅沢な3泊4日のツアーなのにお値段なんと税込み53,800円。やっす。今まで別々で買っていたのがアホらしく思うくらいのお得っぷり。

 そして何より空港が選べるというのが大きな魅力だ。条件はただ一つ、少なくとも往路と復路のどちらかは必ず新千歳空港以外の空港を使うこと。これはうまい周遊のさせ方だなぁと感心。そんな条件の下、私がまず向かったのはというと…

釧路空港


 たんちょう釧路空港なのであった。

 フフフ、どうせ使えるなら使ったことのない空港を使うのが私よ。朝8時に羽田を発ち、約1時間半、釧路の地に降り立つ。初日は夕張に向かわず、3月のダイヤ改正で廃止される根室本線の3駅に降り立ち、その後帯広に宿泊することにする。

 ながい たびが はじまる…


SLの指定席券は宇都宮で発券しておきました

釧路空港


 真冬の北海道は案の定、雪がものっそい積もっていた。ファッキンコールド(クソ寒い)。だがすでに旅は始まっており、これは自らに課した重大な任務なのであるのだから泣き言を言ってはいられない。出発時間は飛行機到着の10-15分後という、何とものんきなバスに乗り込み釧路駅へと向かう。

阿寒バス
釧路駅へ向かう阿寒バス。
乗車券
バスで940円だからそれなりの距離があるのか。


 バスはのんきだが私はそうそう悠長に構えてもいられないのである。バスが出たのが10時前、駅に着くのが大体1040時頃、列車の時刻が1105時。猶予は25分ほどだが、フリーパスを引き替えるためにみどりの窓口に並ばねばならない。なんでいつもギリギリなんだ!! (マイケル・J・フォックス)

釧路駅
嘘みたいに澄んだ青空に映える釧路駅。
フリーパス
ひがし&きた北海道CPパス。


 バスはほぼ想定通りの時刻に釧路駅前にたどり着いたので勢いよく飛び出して駅へと向かう。うーん、澄み渡った青空が旅を祝福してくれているようでうれしいねぇ。だがそんな気分も一気にどん底に落ちる出来事があった。スタンプ帳にしているクロッキー帳を早速なくしたのだ。おそらくそれはバスの中。慌ててバス停に戻るもすでにバスは行ってしまったよ。北海道に着いてまだ2時間。旅では毎回何かしらの失敗をやらかすが、やらかし最短記録を更新である。のっけからテンションはだだ下がりだし、釧路駅にクロッキー帳なんて気の利いたモノは売っていないし、なんなんだ。たまたまトラベラーズノートを持ってきていたから、押せないという事態は防げたが、危なかった。そんな状態だから無理にでもモチベーションを上げる必要があるのであり、だがたまたまそういう行程にしていた。それがこれである。

SL冬の湿原号


 白煙をもうもうと吐く漆黒のボディが青空によく映えている。そう、釧網本線釧路駅から標茶駅の間を走るSL冬の湿原号だ。この旅最初のテツはまさかの観光列車。たまにはこういうのも何かアリかもね。でも目的は根室本線の廃止予定駅なので、乗るのは釧網本線と根室本線(花咲線)で重複している区間の釧路駅〜東釧路駅の1駅分だけ。数分のうちに乗車記念スタンプを押し、車掌室まで行って乗車証明書をもらい、東釧路駅で降りた。乗り合わせたおじさんは怪訝な表情をしていたよ。そして釧路駅で買った駅弁を車内に忘れたよ(30分ぶり2回目)。いい加減腹立つね。焦るとろくなことがないわ。

東釧路駅
ここで花咲線に乗り換え。
東釧路駅
SLが行った後にやってきました。


 SLが標茶へと発って約5分後、東釧路には根室本線を行く快速ノサップがやってきた。まあまあ乗客はいるが無事にボックス席の一角を確保できたので、まずは初めての下車となる厚床駅へと向かう。



♪厚床 あっとこ 繰り出した〜 (初田牛に向けて歩みを)

  列車は雪の残る寒々しい原生林の中をひた走る。なんなら夏も通った線路であるが、また違った表情を見せているのでおもしろい。漫然と車窓の景色を眺めていると、なにやら動く影があるではないか。あれはもしや本州には棲息していない、あのどう猛なヒのクマなのではないか。そうだとすると列車なんて簡単に転覆させてしまうのではないか…。次々に不安が脳裏をよぎる中、次の瞬間! ヤツが現れた!!

エゾシカ

 シカでした。(©嬉野D)

 こちらの心配をよそに悠然と歩いているのがなんとも腹立たしい。

エゾシカ

エゾシカ

 そしてこの不遜な表情である。

 まぁそら俺だって古くから住んでいる自分の家に突然得体の知れない鉄の塊がやってきたらこんな表情じゃ済まないわな。ごめんよ、シカさん。



厚床駅
厚床駅で下車。
厚床駅
向かいのホームはもう使われることもない。
厚床駅
かつては窓口も開いていた。
厚床駅
トイレのマークがカニ。
 

 東釧路駅を発って約1時間半の1241時、厚床駅に着いた。厚床はかつて標津線が分岐する起点だったため賑わいを見せたのであろうが、今となっては窓口も閉まり、2番線も使われなくなってしまった。趣のある駅舎にしみじみしつつも、私は少々急いでいた。というのも、今回の目当ては廃止予定駅であり、つまるところ厚床の隣の初田牛駅なのである。じゃあ最初から初田牛で降りろよと言う者があるかもしれないが、快速が止まるなら廃止になんてならないんだっつぅの。というわけで歩く。7.5キロを。4カ月ぶりのエクストリーム・乗り換えが始まる。




セブン-イレブン
ようやく飯にありつける…。
ザンギバーガー
ザンギバーガー、本州でも売ってくれ。
道道1127号線
道道1127号線。数字がデカい。
道道1127号線
管理番号で表示しているため4127号線に。
 

 駅前には命のセブン-イレブンがあり、ようやっと昼食にありつくことができた。といっても時間があまりないから片手で食べられるザンギバーガーという、いかにもな北海道の味を楽しんだ。しかしここ根室市というのがまた寒く、温めてもらったバーガーも2口かじったくらいで冷めてしまった。すわ恐ろしき北海道なり。食べ歩き、もとい歩き食べをしながら北海道道1127号初田牛厚床線を突き進んでいく。ところで、途中、4127号という標識にも出くわしたが、これは道路管理番号といって、元々の番号に+3000したものらしい。へぇ。のんびりとした道路を歩いていると、懐かしい邂逅があった。

トッサ

 

 ああっ! トッサ!! トッサじゃないか!!

 トッサとは2016年に北海道を訪れた際(3日目参照)に発見した謎標識のことである。何となくカタカナで「トッサ」と書かれているように読めるから勝手にそう呼んでいるのであって、本当の意味は誰にも分からない…。

スノーシェッド
山がないのに現れるアーチは不思議だ。
スノーシェッド
近未来的な雰囲気がする。
初田牛駅
この道の先に…
初田牛駅
あっ!! あのプレハブは!!
 

 歩き続けて、肌寒いというのに汗が噴き出してきた。7.5キロというのは遠いんだなぁ。初田牛駅では1412時発の釧路行き普通列車をつかまえねばならないのだがその時間が刻一刻と迫ってくる。横を走り去っていく車を羨みながら、痛んできた足を前へと動かし、少しずつ駅へと近づいていく。トンネルのようなスノーシェッドを越え、右手の小道を入っていくと、ようやく視界の先に初田牛駅が飛び込んできた。発車時間まで残り約10分。安堵のため息をつく間もなくカメラを構えたのであった。

初田牛駅
念願の初田牛駅。
セルフィー
とりあえず1枚。表情が険しい。
初田牛駅
駅舎内。一応隣にも部屋があるようだ。
初田牛駅
定刻通り釧路行きがやってきた。


知るか白糠、ご当地入場券はセコマにも

  1412時に初田牛を出て約1時間40分、釧路駅に舞い戻ってきた。花咲線区間が終わり、今度は特急スーパーおおぞら白糠駅へ行く。

スーパーおおぞら
この日唯一の特急列車。
ガラナ
ガラナを飲まないと北海道に来た気がしない。
白糠駅
白糠駅に初下車。
白糠駅
いやに平たい駅舎だ。
 

 乗車時間はものの20分ほど。せっかくの快適な空間なのだからもう少し乗っていたい気がするが、そこはやはり少しでも初訪問駅を増やしたいので予定通り白糠で降りた。この列車に合わせて窓口を閉めるような設定になっているので、無事にスタンプも押せたし、今回最初のご当地入場券も買えた。



わがまちご当地入場券
わがまちご当地入場券白糠駅(29枚目) ※前回から通算します
わがまちご当地入場券
わがまちご当地入場券白糠駅(29-2枚目)
 

 駅前のセイコーマートにもご当地入場券が売っているので買いに行った。簡易委託になるから「(簡)白糠駅発行」の文字が入っている(下の画像参照)。買い物を済ませて駅に戻ると時刻は17時を回っていた。予定ではここから歩いて古瀬駅に向かうことになっていたが、すでにグロッキー状態だったのでこのまま白糠で1802時発の列車まで待つことにした。

白糠駅
駅の待合室。それなりに大きいが閑散としている。
白糠駅
ご自由にお通りください。と書いてある。
 

 何もない待合室で1時間。容赦なく襲いかかってくる孤独感と寂寥感といったらそれはもう凄まじいものがあるワケで、ひたすら電脳世界のTwitterランドへ逃げ込むことで事なきを得ようとしたのだが、かすかにホームの方から機械音が聞こえてくる。確認のために改札を抜けてみると…

キハ

 

 なんと向かい側のホームに列車が入線しているではないか。慌てて時刻表を見ると、1721時に白糠を出発し釧路へと向かう普通列車がある。そしてこの列車で庶路駅まで行き、庶路で反対方向の列車に乗り換えれば当初白糠でつかまえる予定だった2530Dに乗ることができるじゃん。新しい駅にも訪問できる、この華麗な乗り換えに土壇場で気づくことができたのが我ながら素晴らしい。

白糠駅
古めかしい跨線橋を渡る。
白糠駅
大分くたびれているなぁ。
キハ40
タラコ色のキハ40が。
キハ40
しかもラッキーナンバー777。


 

 列車は10分ほどで庶路駅に到着。私のほかに降りる人、ここから乗り込む人の姿はなく、ぽつねんとたたずむ駅舎の明かりがいかんとも物寂しい。単線化されて久しいようだが、向かい側のホームには国鉄時代の駅名標が残されていた。辺りがすっかり真っ暗になった1746時、帯広方面へ向かう列車がやってきた。

庶路駅
降りるだけ降りた庶路駅。
庶路駅
跨線橋からの眺めはいい感じ。
庶路駅
向かいのホームにある国鉄時代の駅名標。
キハ40
帯広方面行きがやってきた。
 

 この列車で向かう先は尺別駅。初田牛駅同様、ダイヤ改正でその役目を終える駅だ。ほぼ貸し切り状態の列車で一路目指していくが、途中なんと古瀬駅で少々長めの列車待ち合わせがあったので、いったん降りて写真を撮ったのであった。わざわざ歩いて行かなくてホントーによかった…。

古瀬駅
ラッキー下車。古瀬駅。
古瀬駅
駅舎のようなものはなさげ。


べっ別に尺別も直別も行きたいわけじゃないんだからねっ

尺別駅
2つめの廃止予定駅・尺別。
尺別駅
人っ子一人いない。
尺別駅
駅舎内は明るい。
尺別駅
結構広い待合室じゃないですか。


 1830時、降り立った尺別駅にはもちろん誰一人おらず、ただただ静寂の時間が流れるのみであった。かつては尺別も炭鉱で栄え尺別鉄道というものも接続していたようだが、今となっては見る影もなくなってしまっている。だがそれでも駅は、訪れるかもしれない誰かのために明かりを灯してその時を待っていてくれているのだ。そして間もなくその役目も終わりを迎え、列車が停まることはなくなる。ここは物音一つないということもあり、一層強くもの悲しさを覚えてしまう。

 だが、感慨にふけってばかりもいられない。同じく廃止される隣の直別駅まで、この日2度目のエクストリーム・乗り換えがあるからだ。距離にして5.2キロ。厚床と初田牛ほどではないにせよ、夜に5キロはしんどいわ…。



尺別駅
尺別駅外観。フラッシュたいてこれ。
尺別駅
そして駅前は…


 こえーよ。

 駅は明かりを照らしてくれるけど駅前は一切そういう気の利いたものがない。変質者とか出放題だろうし、なんならちょっと歩いているだけでも職質されるレベルかもしれない。

踏切


 だからこえーよ。

 踏切を越えた先が国道38号のはずなのに、異界への入り口みたいになってるじゃないか…。意を決して進んでみても明かりはとんとなかった。

国道38号線
国道38号。看板には「尺別」とある。
国道38号線
たまにある街灯がこんな感じ。


 こんな道がひたすら続いていく。暗いし寒いししんどいし、たまに通る車はぶっ飛ばしていくし、一体自分は何をやっているのだろうか、と、いつものことながらアホらしくなってきた。スマホのバッテリーも寒さで大分減りが早くなってきたし、ちょっと走るか、と思った矢先のことだった。突然、道路沿いの山の方からけたたましいサイレンが鳴り響いたのである。あっ死んだ。と思って目を閉じた。ああ、こんなことなら最初に夕張に行っておけばよかった。さようなら、世界中の俺のファン。おもしろきこともなき世をおもしろく——。などと独りごちる余裕があるくらいだから無論生きていた。何なんだ一体。そう思っていろいろ調べてみたらこれの正体がYouTubeにあったので貼っておく。何なんだ一体。



 そして歩くこと1時間あまり、よーーーやく直別駅へとたどり着くことができた。死ななくてよかった。

国道38号線
看板が「直別」に!!
国道38号線
久々に信号が出てきた。
直別駅
駅の案内標識だ!!
直別駅
奥にある小さいのが駅か…?


ニッコーケッコーサイコー

直別駅
こぢんまりとした直別駅。
直別駅
駅舎内は2人入ると窮屈。
直別駅
なぜか置かれている温度計。
あんパン
小腹を満たす。


 直別駅はちいちゃな木造駅舎がかわいらしい。この無人駅の何が凄いって、このクソ寒い中、先客がいたことである。ホームで写真を撮っていたからおそらくテツのおじさま。待合室内にあった温度計によると気温はマイナス1度。おじさまがいたことも凄いが、自分もよくここまで歩いてきたと思う。ただ思いの外早く着きすぎて、ここでは帯広方面への列車を45分くらい待たなければならない。大空と広い大地とマイナス1度の中で?

 そんなことよりセルフィーだ!!!

セルフィー


 根室本線の廃止予定駅巡りをひとまず終え、上々な気分だったのもつかの間。腹立たしいやら悲しいやら、やるせない気持ちになる出来事があった。詳細はTwitterに書いたのでこちらを見てほしい。

で、これは悲しいのと悔しいのと腹立たしい気持ちが入り混じっていてもうどうしていいかわからないので書くけど、直別駅のノートが待合室になかったんですよ。入っていたと思しき袋はあるのに。盗まれちゃったのかと落胆しつつ、別の紙に一筆書いたんですわ。

— れいわむら (@iwamuraaaaa) 2019年1月27日

どうにかしたくてもどうにもならない。用を足すのも控えて今待合室にいるけど、冗談半分でこういうことをしてほしくないし、犯人のことを心底憐れに思います。以上。長々と失礼しました。

— れいわむら (@iwamuraaaaa) 2019年1月27日


 当人は軽いいたずらのつもりでやったのかもしれないが、これは到底許されることではないので、犯人にも同じ目に遭ってほしい。つまりうんこまみれになってほしい。残念ながらどうすることもできないので私は最終列車で帯広へ向かうことにするよ。さようなら直別駅。

直別駅
直別駅ホーム。
直別駅
2つのヘッドライトに安堵。


 2032時、帯広方面の終列車がやってきた。いい加減体の芯から冷えたところだったので遅れず来てくれたのはありがたい。まぁここからこの日の宿がある帯広駅まで1時間半ほどかかるのだが、乗っていれば必ず運んでくれるのだから列車というのは本当に便利だなぁ。と、思いきや途中で何のアナウンスもなくいきなり停まった。不審に思って外に目をやると、駅名標があるではないか。

常豊信号場


 常豊ってどこだよ! と思うかもしれないが、実はこれ駅ではなく信号場なのである。

 Wikipediaによると、過去に旅客扱いしたことがないのに駅名標が立っている珍しい信号場だという。やーこれまでこの区間は特急しか使ってなかったから知らなかったなぁ。あとWikipediaによると、周辺に「集落などは存在しない。」ときっぱり書かれてしまっていた。なぜ駅名標をわざわざ立てたのか、そして隣の上厚内駅が廃止された後、隣駅が厚内駅になったことからそこもきちんと修正されている。うーむ、常豊に入れ込む深い理由があるに違いない。

 そして2217時、列車は帯広駅へと入っていった。何にしても腹が減ったのでラーメンを食べて宿へ。今回泊まるのはホテル日航ノースランド帯広という周辺でも立派でリッチな宿泊施設。これもツアー料金の中に含まれているというのだから最&高である。そして何より翌日もこのホテルに泊まる連泊プランにしたので、身軽な状態で行動できるのがうれしい。翌日はこの旅のメーンエベント、夕張へと行きますよ!!

帯広駅
この日の最終目的地・帯広。
三楽
三楽というラーメン屋で晩飯。
日航
ホテル日航ノースランド帯広は帯広駅に隣接。
日航
調度品もリッチな雰囲気。最高ですな。